現在、日本で栽培されているイチゴは、殆んどビニールハウスで栽培されていて、イチゴ農家がさまざまな栽培方法を駆使して作っています。
その反面、露地栽培は秋から春の低温の時期に栽培することもあり、病害虫の発生が少なく、難しい方法や特別な手間をかけなくても栽培することができます。
露地イチゴは初心者でも簡単に栽培でき、イチゴ本来の旬を楽しむことができるのです。
イチゴ栽培を始める時期は二通りあり、一般的には秋に苗を購入して定植します。
もう一つの方法は春に親株を定植し、発生したランナーから子株を育て秋に定植します。
夏場に手間がかかるのでお勧めできませんが、たくさん栽培したい方はこの方法を試してみるのも良いでしょう。
苗の増やし方については後半で解説しています。
難易度:
目 次
秋植えの栽培表です。定植、マルチのタイミングを間違えずに行いましょう。
1.最初に品種を決める
イチゴの品種は数多くありますが、殆どがビニールハウスで栽培されています。
中には露地栽培に不向きなものがありますので品種選びはとても重要になります。
また、暖地と寒冷地では適する品種が異なりますので、園芸店や経験者に相談すると良いでしょう。

しかし果肉が柔らかいこともあり、今は市場に出回ることはほぼありません。
作りやすさに定評があり、花がたくさん咲くのでたっぷり収穫できる露地栽培用の品種になります。

甘みと酸味のバランスが魅力で、とてもジューシーです。
生育旺盛で露地栽培でも育てやすいのが特徴です。

桃のような香りがあり、甘みが強く、酸味が少ない、とても美味しいイチゴです。
栽培しやすいので初心者にもおすすめです。

酸味が少ないので甘みがより一層感じられます。
色はそれほど濃くならないので、収穫適期を逃さないように気をつけましょう。

イチゴ王国、栃木県のブランドイチゴで、関東地方で多く栽培される人気種です。
2.畑の準備と肥料
定植は10月に行いますので、その2週間前に施肥耕運を行います。
完熟堆肥を1㎡当り2㎏と、イチゴの専用肥料を規定量施し深く耕します。
イチゴの専用肥料が無い場合は、窒素分が少なくリン酸が多めの肥料でもかまいません。
一条植えでは60~70cm、二条植えでは120~140cm幅の畝を立てます。
1.イチゴに適した場所を選びましょう。
- 水はけが良く、日当たりの良い場所を好みます。
また、風通しの良い所を選ぶことで、病気の発生を軽減することができます。 - 作障害があります。2~3年の間を開けて栽培しましょう。
2.土壌PHは5.5~6.5が適切です。
- 酸性が強い場所は苦土石灰を施してPHを調整して下さい。
比較的安価な土壌PH測定器もありますので、PH測定の実施をお勧めします。
3.肥料は少な目、秋の元肥を重視します。
- イチゴの根は弱く肥料焼けしやすいので、少な目の肥料で栽培します。露地栽培では肥料を与えるのは秋に限定して下さい。(追肥も11月で終了)
- 春の開花時や収穫時に肥料を与えても、葉やランナーの成長が旺盛になるだけで果実が肥大することはありません。それどころか酸味が強くなり美味しさが半減します。
3.定植時に気を付けること



1.定植の時期
- おおむね10月の初旬から中旬に定植します。
遅くなると株が大きくならない間に冬を迎えてしまうので、根の量が少なくなり良いイチゴが取れません。
2.定植する向きに気を付けましょう。
- 切り離したランナーを畝の中心に向けて植えます。
花房はランナーの反対方向に付きます。植える方向に気を付けましょう。
3.定植の株間を決める
- 株間は25~30㎝、二条植えでは千鳥植えにします。
4.スムーズに活着させる植え方

活着の良し悪しが後の成長に大きく関わってきます。
乾いた土に植えてしまうと、根の水分が土に奪われ傷んでしまいます。
後でたっぷり水をやっても、傷んだ根は元通りにならないので活着が遅れてしまいます。
そのため、植える前に土を湿らせておくことをおすすめします。
植え付けの手順
- ポットより少し大きめの穴を掘り、たっぷり潅水して水が引くのを待つ。
- 根鉢を崩し半分くらい土を落とし、クラウンが埋まらない程度の浅植えにする。
- 最後にもう一度タップリ潅水する。
4.定植後の管理



1.活着促進の潅水
- 定植後の一週間程度は毎朝潅水を行い、活着を促進しましょう。
スムーズに活着させることが、その後の生育にとてもプラスになります。
曇りや雨の日以外は、土にしっかり浸み込ませるようにたっぷりあげて下さい。
2.追肥のタイミング
- イチゴの追肥については諸説ありますが、露地栽培では追肥を施さない方が甘いイチゴが栽培できます。
元肥に完熟堆肥を1㎡当り2㎏と、イチゴの専用肥料を規定量施しておけば良いでしょう。
- 良いイチゴは根張りの量で決まります。
冬の間、地上部である葉の成長は止まりますが、根の成長は止まること無く、春の開花の頃にピークを迎えます。根の量が多い株は大きく甘いイチゴができるのです。
- 春になって暖かくなると葉やランナーが急速に成長してきます。
その時期に追肥を行うとますます葉やランナーが成長し、果実に栄養が回らなくなります。
果実の肥大が悪くなるばかりでは無く、酸味が強くなる傾向があります。
3.冬の管理
- 冬の間は特に管理することはありません。
外は寒いので3月初旬のマルチングまでゆっくり休みましょう。
4.マルチを張る
- いよいよ春がやってきますのでマルチをしてイチゴの成長を促します。
マルチの効果は地温を高めることはもちろんですが、土中水分の蒸発と雑草の発生を防ぎます。
さらに、果実が直接土に触れて汚れるのも防いでくれるので必ず行いましょう。

次にイチゴの古い葉と花房を取り除きます。今の時期(3月初旬)に咲いている花は結実しません。
花房ごと取り除く方が後の生育にプラスになります。
マルチの張り方




- イチゴ苗を覆うよう畝全体に黒色のマルチを被せ、なるべくピンと張ります。
- 次に苗のあるところを優しくカッターナイフで切りイチゴを外に出します。
- 小さく十字に切るだけで簡単にイチゴを外に出すことができます。
- イチゴを全部外に出した後、マルチの張りを修復するとピンと張ることができます。
5.病気について
- 露地イチゴは比較的病気が発生しにくい作型になります。
肥料を少な目にし、定植の時期を間違えなければ無農薬でも栽培することができます。
イチゴの主な病気
病気の種類 | 特 徴 | 原因と使用薬剤 |
炭そ病 | ・葉には濃茶色の斑紋ができ、ランナーには褐色の病斑ができて凹む。 ・収穫の終り頃や苗の時期(気温が高い時期)に発生しやすい。 ・秋の定植から春の収穫時期まではほぼ発生しません。 |
土の跳ね上がりで蔓延する。 雨よけ育苗で予防する。 セイビアーフロワブル オーソサイド水和剤80 |
うどん粉病 | ・葉の表面に白い粉のような病斑ができる。 ・露地栽培では発生が少なく、収穫が終わった頃に発生することが多い。 |
多肥料、多潅水 アミスター20フロアブル |
灰色カビ病 | ・主に果実に発生し、褐色の病斑に灰色のカビが生える。 ・雨が続き湿度の高い時や、株元が密集している場合に多発する。 |
多肥料、密植、風通しが悪い スミレックス水和剤 |
6.害虫について
- 春の成長期のアブラムシや、収穫後期にハダニ類の発生が懸念されます。
いずれも初期の防除が大切で、大量発生してしまうと薬剤散布でも退治できない場合があります。
イチゴの主な害虫
害虫の種類 | 特 徴 | 原因と使用薬剤 |
ハダニ類 | ・赤みを帯びた小さな虫で葉の裏など繁殖する。 ・大量に繁殖するとクモの巣を張ったような状態になる。 ・高温・乾燥時に多発する。露地栽培では栽培後期に注意。 |
発生初期の防除が大切。 ダニトロンフロアブル コテツフロアブル |
アブラムシ | ・体色が緑、黒などの種類があり、葉の裏に発生し樹液を吸う。 ・大量に発生すると樹勢が衰え、アブラムシの体液でベトつく。 |
発生初期の防除が大切。 モスピラン水和剤 |
7.花房とランナーの摘み取り
- 軸が短い花は実が付かなかったり、実が小さくなるので摘み取ります。
春が訪れ、気温が高くなってくると生育が盛んになり花も咲いてきます。しかし、早く咲いてしまった花の殆どがうまく受粉できず、実ができなかったり変形したりします。
そんな花は早めに摘み取っておいた方が、風通しが良くなるので灰色カビ病の予防になります。 - ランナーは養分を分散させるので早めに摘み取ります。
気になる苗採り用のランナーは、6月以降に出たもので十分利用できます。
5.収 穫
暖かくなってくる4月の終わりから5月の初めに、イチゴの実が赤く色づき始めてきます。
果実全体が赤く色づけば収穫できますが、最盛期は次々と色づいてくるので取り遅れの無いようにしましょう。
収穫の方法には、ちょっとしたコツがあるので動画を参考にして下さい。
6.イチゴの苗を増やす
秋に苗を購入する予定であれば収穫した株は撤去してしまいます。
しかし、株数を増やしたい人は少し株を残し苗を増やしてみて下さい。
農家では4月頃にプランターに定植した親株から苗を取りますが、家庭菜園では収穫した後の株を親株にします。収穫前にランナーを摘み取っていても、6月に入ると次々と出てくるので心配いりません。
1.用意するもの
ポット | 10.5㎝が良いでしょう。 9㎝でも使用できますが、培土の量が少ないので夏に土が乾きやすくなります。 |
ポット用培土 | 細かめの鹿沼土や赤玉土など、排水性が良い土を選びましょう。 |
苗を押さえるクリップ | 太めの針金などをUの字に曲げて使用します。 |
育苗箱 | ポットを並べて管理するために使用します。 |
2.ポットで子株を受ける

・ポットに培土をやや多め(9分目)に入れ十分潅水します。
(少なすぎるとランナーの子株をクリップで止められなくなります)
・ランナーの子株をポットに受け、クリップで固定すれば完了です。
(ランナーの子株は二番目か三番目が良いとされています)
3.子株を活着させる

子株が根を伸ばし定着させるには土が適度に湿っている必要があります。
そのため、晴天の日であれば一日一回の潅水を行いましょう。
4.ランナーを切り離す

根付くまでの期間はおおよそ三週間くらいでしょう。
株元のランナーを3~4㎝残して切り離します。
5.夏場の管理
切り離した苗は、もう親株から水分も養分も貰えません。
直射日光や乾燥を防ぐため、寒冷紗を被せるか半日陰で管理します。
これから10月の定植まで長い管理の日々が続きます。
- 枯れないように潅水を行う。
晴天の日は毎朝潅水します。夕方、萎れがある株はその都度潅水しましょう。 - 古くなった葉を取り除く。
古くなった葉は風通しを悪くし、病気になりやすくなるので取り除きます。
前半は3~4枚、後半は4~5枚の葉が展開した状態が理想です。 - 炭疽病を防ぐ
炭疽病に強い品種を選ぶことが第一です。
甘い、美味しい、実が大きいなど魅力ある内容だけで品種を選ぶと、炭疽病で全滅ってこともありえます。
まずは炭疽病に強い露地向けの品種を選びましょう。
露地向けで炭疽病にも強く、最も作りやすい品種は「宝交早生」です。 - 肥培管理
ランナーを切り離した時点から、ポット内の肥料分は消費されていきます。
そのため肥料分を補うのですが、一度に多く施してはいけません。
化成肥料であれば一度に3粒程度とし、与える回数で肥料分を調整します。
多く与えすぎると病気になりやすいので、葉の色が薄くなってきた時に与えます。 - 鉢揉みを行う
長期間ポットで栽培していると培土が硬くなることがあります。
硬くなった土は根の成長を妨げるので適度に鉢をもみ柔らかくします。
長い夏場の管理を終えてやっと定植することができます。
自分で作り上げた苗がたとえ立派なものでなくても、来年の春には必ず実を付けます。
まとめ
難しく思われがちなイチゴ栽培も、露地栽培では思った以上に簡単に栽培できます。
マルチを張ることをお勧めしますが、品質に拘らなければマルチ無しの植えっぱなしでも収穫できます。
また、今回紹介していませんがプランターでの栽培も意外と簡単です。
露地栽培の品種は「宝交早生」がダントツでお勧めです。
耐病性などの作りやすさはもちろん、懐かしいイチゴ本来の味や収量も多いのも魅力です。